庭から聞こえた刺のある声に、まるで悪いことを考えていたかのように心臓が跳ねた。


「またお前か。人に会いに来ただけだ」

「主人の不在を知っていて? そんなことでは、疑われても仕方がないと思います」


(……何だ、一彰か)


びっくりした。
でも、いくら嫌われているとはいえ、まさか部屋で大人しくしているのに咎められることもないだろう。
それにしても、よかった。
一彰は当然、長閑に会いに来たのだ。
そこをあの子に見つかったようだが、おかしな疑いはすぐに晴れるはず。


「思ってもないことを言うな。そんなもの、これっぽっちも疑っていないだろ、お前。いい加減、俺に難癖つけるのやめろよ。……あと、あいつにも」


どういうことだろう。
意味はさっぱり分からないが、「あいつ」はもちろん私を指すのだ。
いけないと知りつつ、どうしても気になって耳をそばだてた。


「……私は、あの姫君をどうしても信用できません。あの方を少しでも想うのならば、なぜお気づきにならないのです? それほど遠くにいらっしゃるのでもない。むしろ、何の隔てもなくお会いになるくらい、側で過ごされているのに。私に主を止める権利はありませんが、苦言を申し上げるのも無理ないではありませんか」

「……あいつが気づかないでいるのが、その主の希望どおりだったとしてもか」


(気づく……? 何に……? )


話は見えないが、あの子が私を嫌っている理由はこれなのだ。
私は、何か大きなものを見逃している。
そしてそれは、恭一郎様に関することで――お側にいれば、気がついて当たり前のこと。