「……彼氏とかいないの?」



いや、答えたくなかったら別にいいけどな。

なんて少しひそめつつ、軽さを装った声で尋ねてくる若松さんに、内心首を傾げる。



若松さん、今日はずいぶんとつっこんで聞いてくるなあ。




「うーん、残念ながらいないですね。
昼夜逆転生活で、バイトと家しか基本行き来しないので出会いがないんですよね」



「朝倉ちゃん、べっぴんさんなのになあ」

「…若松さん。そういうのをセクハラって言うみたいですよ」


「えっ、まじ!?」



嫌だったらすまん!と慌てる若松さんの様子が珍しくて、思わず笑ってしまう。




若松さんは私とそういくつも歳がはなれてる訳じゃないのに、いい意味で自分よりもずっと余裕ある大人だと感じる。

私も数年したら若松さんのように“大人の人”になれるんだろうか。

というか、何をもってして“大人になった”ということになるんだろう。




事務所内に沈黙が降りる。



プリンの器とスプーンのプラスチック同士がぶつかる音が少し大きく聞こえる。

店内の方から陽気なクリスマスソングがうっすらと流れていた。