とんとん、と拳を太ももに打ち付ける姿を、冷めた目で見つめる。


国語の授業には相応しくない雰囲気が流れるのは、もう何度目のことだろう。

小学生でもないのに、音読をさせる国語教師もいかがなものかと思うけれど、それ以上に、私は太ももを打ち付ける音にウンザリしていた。


どうして、私が居たたまれない気持ちにならなければいけないんだろう。

くす、と教室のどこかで生まれた嘲笑は、波のように伝染して、教室を包む。

人は異質なものに恐怖を抱く。それを隠すために、見下すという方法をとる。自分の文脈に無理やり押し込むには、そうするしかないのだろうなと思う。



「木梨、もういいぞ。はい、次、笹島」


教師の声に、太ももを打ち付ける音が止んだ。その音を出していた木梨が、俯いていた顔をほんの少しあげる。その動作と、笹島の声が重なる。

途端に、木梨は安堵の表情を浮かべた。


逃げた後に、恥ずかしいとも思わずに、逃げ切ったことを喜ぶ人間は好きじゃない。自分の弱点を人から見えないようにする努力もせずに、他人の配慮に任せる姿勢は恥だと思っている。

私なら、隠す。隠している。

もしも、隠すことをやめて木梨と同じような振舞いをしたら、もうカーストの一番上にはいられなくなると分かっている。底辺まで転げ落ちるかもしれない。


木梨は、誰が見ても底辺だ。