家に戻ると、テレビも電気もつけっ放しで、自分が美也子の電話を受けて、一目散に彼女のところへ向かったことを思い出す。
床に座り込んで、テレビも電気もすべて消した。ゆっくりと息を吐き出して、目を瞑る。しばらくは、音楽のことさえ頭に思い浮かべる気にならなかった。
美也子は、明日からどうやって生きていくんだろうか。
初めてできた彼氏にあんな仕打ちを受けて、俺が彼女なら耐えられない。自分にできることがあるのなら、何でもしたいと思った。
美也子のために俺はなにができるのだろう。
明日も生きてやるかって思わせたい。青山の身に起きたことを推し量るのには限界がある。あいつよりも、あいつの大切な人よりも、俺は美也子のことが大切だ。
すべての人間がすでに傷ついてしまっているのならば、誰の傷を癒すのか選ぶしかない。
誰も守らないくらいなら、誰か一人を守ったほうがいいと思った。
いつになく俺は、強気だった。
それは、緊急事態に美也子が助けを求めたのが俺だったからだ。
目を閉じて思い浮かべる美也子が泣いている。それでも、無理やり笑うくらいなら、ずっと泣いていればいいだろ、と思っている。
大丈夫か、と聞いたら、どうせいつものようにへらへらと笑って適当なことを言って誤魔化すのだろう。それは美也子の癖だ。都合が悪くなると、自分が馬鹿であるかのように振舞うことを、俺が気づいていないと彼女は思っている。
その癖が美也子を守っていることも確かで、いつも俺は気づいていないふりをしているけれど、今日のことに関してはそうする気になれなかった。
ジャーン、と、結局俺の頭の中にはすぐに音楽が鳴る。そして、諦めた。
恐らく、俺が美也子にできることなんて、一つしかないのだ。