【美也子】



 日曜日の昼下がりの喫茶店で、私と青山くんは向かい合っていた。

暖かそうなコートに身をつつんで、丁寧にフォークでショートケーキを切り分ける姿を見つめながら、私はほっとココアを啜る。


 お試しで付き合うことになって、三週間が経過していた。

平日の夜に電話をしたり、休日は青山くんの部活がないときに遊びに行ったりする。生きている中で、間違いなく今が一番幸せだと私は思っていた。

夢中になるとは、的を得た表現だ。本当に夢の中にいるような心地なのだ。


自分でも自覚していることとして、私には人とのコミュニケーションを円滑にするために、わざと何も考えていないふりをしてお道化る癖があった。もちろん、本当に何も考えていないときもある。

だけど、大体は、周りから何を求められているのか汲み取ったうえで、その欲求通りの自分でいようとした結果として、馬鹿な自分を演じている。

なぜか青山くんには、そういう振舞いをしなくてもいいという安心感を抱いていた。それはきっと、彼が落ち着いた人だからだろう。


彼といるときの私は、いつもよりもお淑やかな気がする。

休日の喫茶店で優雅にティータイムを過ごしたことなんて、彼と付き合うまで一度もなかった。


冬の他愛もない日に好きな人を目の前にしてホットココアで温まる幸福を、どうしてこんなにも容易く手に入れてしまえたのだろうか。そう思いながら、目の前の彼に笑いかける。


「休日に喫茶店とかよくいくの?」

「いや、いかないけど。朝日が好きかと思ったから」


青山くんの目に私はどういう風に映っているんだろうか。

「好きだよ」と返事をした。

嘘を吐いたというよりは、彼に喜んでほしかったからだ。


「最近はバスケの大会とかはないの?」

「しばらくはない。冬はオフだから」

「室内競技なのに、オフとかあるんだね」

「あるよ。だから今は、筋トレがメイン」

「へえ、大変そう」

「いや、そうでもない。……ていうか、俺の話は言いから、朝日のことを何か話してよ」


青山くんがテーブルに肘をついて、僅かに身を乗り出した。

ビー玉のような丸い瞳で真っ直ぐに見つめられると気恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。私の恋愛経験が乏しいことは、青山くんにも感づかれている気がする。


「私の話、かあ」

「うん。家族の話とか、最近のこととか、色々あるだろ」

「つまらない話しかないよ」

「いいよ、聞きたいから」

「私の何の話が特に聞きたい?」

「んー、そうだな。……家族の、話」

「それ本当に興味ある?」

「あるよ」