その気持ちのまま、ベランダへ出る。冷気が舞っていて、身体が震える。
「あ。あんた、いたんだ。びっくりした」
いつの間に、リビングから抜け出したのだろうか。
部屋は別々であるけれど、ベランダは隔たりがなく地続きになっており、私と妹の部屋は一つのベランダを共有している。暗いベランダの隅で、妹が柵に肘をついて外を眺めていた。
彼女が何を考えているのか私は分からない。今まで知ろうともしなかった。助けを求められれば助けるけれど、求められないから助ける気にはならなかった。
何か言えば、関係がない、と言ってシャットアウトされてしまう。
妹は私とあまり仲良くしたがらない。
だけど、今日は青山くんとのこともあって、気分がよかった。
嫌がられたとしても、姉として寄り添ってみてもいいんじゃないのか、という気分になる。妹にしてみれば、はた迷惑であることは重々承知の上で、一度家の中に入り、冷凍庫からアイスバーを二本取り出して、再びベランダへ戻った。
「アイス、食べようよ」
「……こんなに寒いところでアイスなんて、みやちゃん頭おかしいよ」
「あんたよりは賢いよ」
妹の顔が歪む。
彼女が、私とは違って勉強が苦手だったことを思い出す。そのことで、両親に散々圧力をかけられてきたことも。
自分の発言に少し後悔しながらも、謝りたくはなかったので、そのまま何も言わずに妹にアイスを押し付けた。妹は、不服そうな表情で私からそれを受け取る。
「中途半端に寒いよりは、最高に寒いほうがいいよ。勉強なんてできなくても、寒さに強かったら死なないから大丈夫」
「みやちゃんの理屈、本当に気持ち悪くて嫌い」
「嫌いで結構だよ。あんた、お父さんとお母さんに毎日怒られすぎ。私も、心配してるんだからね。色々とそんなにやばいの?」
「別に」
「別にってことはないでしょ」
「みやちゃんには関係ない」
「関係ないけど、アドバイスしてあげる。あの人たちが言ってることなんて、聞き流しておけばいいんだよ」
「そういう、問題じゃ、ない」
「でも、全部受け止めていたら、しんどいんだからね。誰の言葉でもそうだけど、自分が受け止めたいものだけでいいと思うよ。信じたいものだけ、信じればいい」
「信じたいものなんて、もうないんだよ」
「あーもう。本当に、あんたは、ああ言えばこう言うよねー」
雪の降る夜のベランダでアイスを食べる姉妹なんて、この世界で私たちだけじゃなかろうか。凍えそうだ。
それなのに、家の中よりも呼吸がしやすいなんてどうかしている。
妹が空を仰ぎ見る。はあ、と息を吐くと、白く染まって消えていった。
「……みやちゃん」
「うん? なによ」
「私、みやちゃんみたいになりたかった」
「そんなにいいものじゃないよ」
そう言いながらも分かっている。
確かに私は妹よりは恵まれている。勉強ができるから、両親には怒られない。妹のように問題も起こさない。気心の知れた友達も、頼りになる幼馴染もいる。今日は、好きな人に告白までされたのだ。
「ううん。私は、みやちゃんみたいになれたらよかった」
世界は正しく不平等なのだ。
こんな凍えた夜にしか弱音を吐けない妹よりは、私は間違いなく幸せだ。