「俺、去年同じクラスだったときから、朝日のことが好きだったんだ」
「え、」
「驚かせて悪い。でも、本当だから、彼氏がいないなら、俺と付き合ってほしい」
「あの」
「お試しでもいいから。……どう?」
戸惑ってまともに返事のできない私の前で、青山くんは、コーラを飲み干して笑った。それから、ファミレスを出た後、私を家まで送ってくれた。
暗い雪の世界に、傘は二つ並ばなかった。彼の大きなビニール傘に、二人で入った。傘に降り積もる雪は粉砂糖のようで、まるで天からも祝福されているような気分だった。
簡単に恋に落ちて、告白に頷いた。
アメーバと同じく単細胞だ。だけど、それでもよかった。
別れる前に、連絡先も交換した。
去っていく背中を見届けて、携帯を確認すると、宗から〈What?〉と返信が来ていた。緩まる頬を無理に引き締めることはせず、雪の降る中で携帯を操作する。〈王子様に告白されて、付き合うことになった〉そう打ち終えて、勢いよく送信ボタンを押した。そこでようやく実感が湧いてくる。
家に入ると、今日も両親と妹は言い争いをしていた。
「ただいま」に返ってくる声はない。自分と妹のローファーを揃えて、そのまま自分の部屋に戻る。
誰かに話を聞いてもらいたくて、宗に電話をかけたけれど、彼は出なかった。その代わりに、〈騙されてるんじゃねーの?〉と、失礼なメッセージが送られてくる。
何と返事をしてやろうか迷っていると、着信の画面に切り替わった。
宗かと思ったら、本日付き合うことになった青山くんからだった。駆け引きなんてものはできない。私は、躊躇うことなく、ワンコールで出た。
「もしもし」
『電話出るの早いな。携帯触ってた?』
「うん。どうしたの?」
『いや、一つだけ伝え忘れたことがあったから』
「なに?」
『まだ、お試しで付き合うことになっただけだから、人には言わないでおこう。秘密で付き合う方がいいと思う』
それはどういった配慮なんだろう。
恋愛経験の乏しい私には、いまいち彼の真意が掴めずにいたけれど、特に気にすることもなく同意する。
宗には既に伝えてしまっていた。誰にも言わないでほしいと後で釘を刺して置けば大丈夫だろう。『おやすみ』という落ち着いた声の後に電話が切れる。
誰かに眠りの挨拶をもらうのは、新鮮で、くすぐったくて、嬉しかった。