「おい! 顔面はなしだろーよ! 俺のかっこいい顔に傷がついたらどうするんだよ」
「そのときは、婿としてもらってあげるー」
「いやいやお前にもらわれるくらいなら、美也子ちゃんがいいなあ」
雪の塊と共にとばっちりを食らった。苦笑いをしてしまう。
「だめだめ。美也子ちゃんは、宗くんのだから」
「げ、そうだった。宗だけに」
ただでさえ寒い十一月に、さらに寒くなるようなことを言うのは勘弁してもらいたい。それは周りも同感だったみたいで、駄洒落を言った男の子が雪玉の集中攻撃を食らっていた。
「俺らはそういうんじゃないし」
しばらく、他愛もないことを話しながら雪合戦をしていた私たちだったけど、雪の冷たさに手の感覚が麻痺してきたから、円満に終戦する。
辺りを照らしていた銀色の光は、すでにかなり弱まっていた。
冬はすぐに夜を連れてくる。
「美也子、今度こそ帰ろうぜ」
「うん。あ、でも、帰る前にちょっとだけ体育館よりたい」
「なぜ」
「宗。分かってるでしょ?」
「……あー、なるほど。うん、了解」
シャリシャリ、と雪の積もった地面を体育館めがけて歩くたびに音が鳴る。
薄暗くなった世界に、体育館からの眩しい照明の光がもれていた。
扉の隙間から中を覗く。宗は隣でかじかむ指に息を吹きかけていた。
「晴香が頑張ってるぞー」
「それだれ?」
「私がクラスでよくつるむ子。ほら、あそこで走ってる」
女子バスケ部のコートを指さすと、宗は適当に頷いた。恐らく、彼は晴香が誰なのか分かっていない。
みんな、コートを走り回っている。ボールをつきながら、前進できること自体私にとってはすごいことで、感心していたら、突然、頭をわしづかみされて、顔の向きを強引に変えさせられた。
「ちょっと! 何するの」
「美也子が見たいのはこっちだろ」
「はー?」
「さっさと帰りたいから、お目当ての人だけにして」