最初から、彼女たちが私を毛嫌いしていたわけではなかった。
共通の話題を探って話しかけてきたり、先輩としてマネージャーの仕事を教えようとしたりしてくれていた。それなのに、彼女たちがバスケに精通していないことに気に食わなさを覚えて、わざと専門的な用語をたくさん使って部員のプレーについて話したり、こうした方が効率がいいからと言ってマネージャーの仕事を自分流に変えたりしていたのは私だった。
スコアも書けるし、テーピングもできる。そういう部分をわざと見せつけて、自分のほうがマネージャーとして相応しいことを示そうとしていた。彼女たちのプライドをわざと傷つけていた。
それは、悪意だった。
諦めようと決心をしたら、一歩離れたところからようやく物事を見ることができるようになった。今まで正当化してきた自分の非を認めてしまうことにした。
私には確かに悪意があったのだ。
部員に振舞った蜂蜜レモンは、正しいふりをした悪意そのものだった。
「だけど、こうなってしまったからには絶対に謝りません」
「うん。謝らなくていい。だけど、俺はずっと見ていて痛かったから。林マネが自分の振舞の汚い部分に気づかない鈍い人じゃないと分かって、ホッとしている。俺が林マネのことをずっと助けなかったのは、そういうことだよ」
「青山さんが、気づかせてくれました」
「それは違う。……ところでさ、さっきからずっと気になってたんだけど、その手に持っている紙袋はなに?」
「ああ。これですか」
青山さんに、そっと差し出す。
りかさんやこころさんのことに関して、私が悪かった部分もある。だけど、それにしても彼女たちの悪意は強烈であった。そして、悪意対悪意の戦いに敗北したのは私だ。
「自腹で作った蜂蜜レモンです。お別れの挨拶の代わりに、皆さんで食べてください」
この程度の復讐は許されるだろう。
和解なんて永遠にできない。私は彼女たちにされたことが許せないし、彼女たちもそれは同じであると思う。関係を修復する時間を二度と持てないのならば、いっそのこと、こういう締めくくりも悪くないと思うのだ。
「はは、強烈だな」
青山さんは苦笑いを浮かべながらも、私から紙袋を受け取ってくれた。
「もう一つだけいいですか」
そろそろ休み時間も終わってしまう。だけど、あと一つ、彼に言いたいことがあった。