キャプテンに報告をした足で、私は青山さんのところへと向かった。

彼のクラスメイトらしき人に呼び出してもらい、教室の扉のところで待つ。


席を立ち私の方に来た青山さんは、優しい笑みを浮かべていた。互いに何も話すこともなく、ひとけのないところまで行く。

私はまだ昨日の膝崩れのせいでうまくは歩けなかった。足を引きずりながら、彼の隣を歩いていた。誰もいない階段の踊り場で、私と青山さんは向き合うようにして立ち止まった。

私には、彼に、どうしても伝えたいことがあった。


「辞めることにしました」

 青山さんは私の言葉に、何一つ驚きをみせなかった。

恐らく昨日の時点でこうなることは分かっていたのだと思う。


「青山さんに話しておきたいことが二つあります」

「うん。……聞くよ」

 高い背を少しかがめて、青山さんは私と目線を合わせてくれた。

「蜂蜜レモン」

「うん」

「りかさんやこころさんと関係が悪くなった決定打はそれです」


部費が余っていた。大した使い道がなさそうだった。

だから私はそのお金で、蜂蜜レモンを作って、部員たちに振舞った。

りかさんやこころさんには、何一つ相談をしなかった。

本当は、そのお金で彼女たちが部員にミサンガを作ろうと計画していたことを後で知った。それでも、言わなかったのはお互いさまで、私が悪いわけではないと思っていた。


私は、マネージャーとして自分のほうが勝っていることを、彼女たちに見せつけてやりたかったのだ。


コートの外では協調性がないと相沢先生に言われたけれど、無自覚に協調性がなかった中学生の頃とは違って、私はわざと彼女たちに対して協調性のない自分でいたのだと思う。


「どうしても、許せなかったんです」

「なにが?」

「バスケが大好きだったのに、怪我をしてその気持ちを失って、だけどもう一度取り戻せたらいいなと思いながら私はマネージャーをしていました。それなのに、りかさんとこころさんは、バスケの知識もほとんどなくて、そこまでバスケが好きなわけではなさそうだった。それなのにマネージャーをしていた先輩二人が、すごく嫌だったんです。どうして、この人たちと一緒にマネージャーをしないといけないんだ、とウンザリしてました。それで、そういう態度を、誰にも咎められないようなやり方で、少しずつ出してしまっていたんだと思います」