【円花】
「マネージャー辞めさせてもらいます」
「え、」
「突然で本当に申し訳ありません」
騒がしい渡り廊下で、頭を下げる。
目の前の人は、驚き、戸惑ったような表情を浮かべていた。
昨日の今日だ。りかさんとこころさんとの一件が原因だと思っているのだろう。それは、ほんの少しだけ正しくて、ほとんど間違っていた。
朝一番に、顧問の先生とは話をつけた。もともと、あまり部活にも顔を出さないやる気のない人であったので、すんなりと承諾され、『まあ、これからも頑張れよ』と、何とも適当な餞別の言葉をもらって、終了した。
あと、報告する必要があるのは、目の前にいるこの人だけだと思ったので、休み時間に今こうして向き合っている。
「……昨日のこと?」
「きっかけはそうです。だけど、私自身の問題です。……秋大会が近いのに、本当にごめんなさい」
「いや、それはいいけど。……俺も、ごめん」
「私は何を謝られています?」
「キャプテンなのに、色々と最低だった。信じてほしいんだけど、本当に反省してる」
深い眠りから目覚めたような表情で頭を下げられて、首を曖昧に横へ振る。
謝罪は、いらなかった。
「みんなに辞める挨拶とかはする?」
「いや、それはちょっと遠慮しておきます。こんな時期なので。キャプテンが代わりに言ってくれませんか?」
「分かった。……林マネ、」
「はい」
「チームのために、今までありがとう」
バスケに対する自分の未練を守る一心で、マネージャーという立場に縋りついていた。だから、本当は感謝される資格なんてないのだ。
それでも、キャプテンから感謝の気持ちを受け取ったのは初めてで、一度は軽蔑した相手であったけれど、その気持ちが少しだけ解けていく。
もう一度、彼に頭をさげて、背を向けた。