【円花】


秋の大会まで二週間になると、週末の練習試合に加えて、平日の練習でも実戦形式のメニューが多くなる。

部活が終わった後に残って自主練習をする部員も増えた。そうやって大会に向けての士気が高まっていく中で、りかさんとこころさんとの関係は更に悪化していた。


 原因は、部員の先輩が練習の合間にふと口にした言葉だったと思う。

私が作成したシュート率をまとめた表を、偶然、彼女たちの傍で見ていた先輩が『林ちゃんのこと、ちょっとは見習えよなー。どっちが先輩か分からないじゃん』と、冗談めかして言ったのだ。

それは、何の気なしの言葉だった。彼は、邪気のない顔をしていた。それでも、言葉の重みや温度は、受け取る方がすべて決めることだ。

むっとした表情を浮かべて、顔を見合わせた二人と、そんなことなど気にも留めずに再び表に目を落とした先輩と、その様子を少し離れたところで窺っていた私。先輩は、まさか自分が引き金を引いたとは思っていなかったのだろう。

ざまあみろ、と思う気持ちも勿論あった。だけど、それ以上に、厄介なことになったものだとウンザリするような気持ちを抱いていた。

その日を境に、二人からの風当たりは強くなり、正直なところ、かなりまいっていた。


 あらゆる人の眼差をシャットアウトして、ただやるべきマネージャーの仕事をこなす。

あの日、青山さんに言われた言葉は未だに耳の奥にこびりついている。

そして、それは時間が経つほどに膨らんでいた。


破裂してしまえ、と思っている。目を閉じれば、床の鳴る音や、タイマーの音、汗の臭い、ボールが弾む振動、それらだけを感じることができるのに、目蓋を押し上げた先には、きまって青山さんがいた。


 青山さん、私が悪いのでしょうか。バスケが好きで仕方がなかった自分を捨てられない。ずっと、執着している。そんな私が悪いのでしょうか。

自分よりバスケへの情熱のない人に敵意を見せたのがいけなかったのですか。だけど、やっぱり理不尽だと思います。青山さんが言ったことは正しくない。そう、思います。林円花に戻らないのも、必死にこの場所に縋っているのも、間違いですか。

中途半端で、自分の気持ちでさえ分からないことが、そんなに駄目なことなのか。

心の中で彼に問えば問うほど、彼の完璧だったシルエットは歪んでいく。

あれから、もう何度も問いかけてきた。