「……あの子、中学の時にバスケやってたんだよね」
うっかりと口を滑らせてしまう。有紗が隣のコートから私の方へ向いたのを、視界の隅でとらえた。私は、隣のコートでタオルの整理を続ける彼女をじっと見つめたままでいる。
「実は、私、あの子と同じ中学だったの。一緒にバスケやってたんだよね」
「え! まじか。やっぱりウザかった?」
有紗が私の顔を覗き込む。
それでも、私は、彼女から目を離さないでいた。慎重に頷くと、有紗が笑う。
笑うなよ、と思う。人間は、物事から遠ざかれば遠ざかるほど簡単に醜くなれる。
「ウザいくらいに、うまかった」
がっかりすればいい。
たとえ同じ次元にいるのだとしても、有紗の悪口に同調できるほどに、彼女との思い出が浅いわけではなかった。
チームの中でバスケのセンスが一番あった。彼女のおかげで私たちの代は、地方大会で準優勝を果たした。誰もが彼女のおかげだと認めざるを得ないほどの才能が彼女にはあったのだ。
「本当にうまかったんだよね。一年のときからレギュラーだったし」
「え、……そうなんだ」
それだから、中学校を卒業したらバスケの強豪校に入学して活躍するものだと思っていた。彼女は間違いなく有名な選手になる。私はそう確信していた。
「私立のK高校とかN高校とかあるでしょ? ほら、全国大会の常連校。試合の後とか、そこのコーチがあの子のところにきて話してるのとか、よく見てたもん」
「まじ? 本物じゃん」
「うん。本物」
「なのに、なんで、こんなところでマネージャーとかしてるの?」
それは、私が聞きたいことだ。
十数年しか生きていない分際で才能について偉そうに語ることなんてできない。だけど、彼女は私にとって紛れもない天才だった。
中学生の頃の私は、彼女以上にバスケのセンスがある人を見たことがなかったのだ。
コートの外にいるべき人間ではない。シューズと床が擦れる音を鳴らして、コートを駆け回る。巧みにボールを操ったり、敵の攻撃を阻んだりする。彼女はずっとそれををする側の人間だった。与えられた才能を放棄するなんて、神様にも才能のない人たちにも失礼だ。
そう憤っていた矢先に、彼女についての真実をひとつ、中学の時の友達から聞いたのだった。