男子バスケ部のマネージャーは、りかとこころとたった今有紗から“ウザそう”と言われた彼女の三人だ。大抵、りかとこころが二人で行動している。
同じチームのマネージャーなのに、彼女たちの間に亀裂が入ってしまっていることは、部外者の私から見ても明らかだった。
「どうしてああいう状況でマネなんて続けられるんだろうね。鈍感なのかな、あの子」
有紗が壁によりかかり、しゃがんだから、私も同じようにして座り込む。私たちの視線の先で、彼女は部員のタオルの整理をし始めていた。りかとこころは、部員と楽しそうに喋っている。
「鈍感じゃないと思う。敏感だよ。自分がハブられてることは、ちゃんと気づいていると思う。それでも辞めないのは、理由があるんだと思うけど」
もっと別の何か、が。
りかやこころのような先輩と仲が悪くても、彼女をあの場所にいさせる何か。
それが、何であるのかは、私には分からない。
「男バスのマネしてる理由ー? ろくでもなさそうじゃん」
「バスケが好きだからじゃないの? 女バスは部員多すぎてマネージャー取ってないしさ」
「え、じゃあ、自分がプレイヤーになればよくない? うちらのとこにくれば、ハブとかしないのにね」
次元の低い話だ。あの頃の彼女が聞いたら、呆れるだろうな。そう思いながらも、頷くことしかできない私も、所詮、有紗と同じ次元にいる。
仲間外れとか、ウザそうとか、そういうことが問題になるようなところに彼女はいないはずだったのに、いつの間に、こんなところまで下りてきてしまったんだろう。
初夏の蒸し暑い体育館の記憶、彼女の声を思い出すと、私は時々、途轍もなく悲しくなる。
立派な羽をもっているのに、飛び立たない。もったいないと思っている。はじめてこの高校の体育館で彼女の姿を見たとき、思わず眉をひそめてしまった。あの時の気持ちは、怒りとほとんど同じだった。