「今日、久しぶりに皆でディナーに行かない?」

「賛成」

「俺も風馬と同じく賛成ー」


 カシオペアを出たところで、君島さんの提案に風馬先輩と太一先輩がすぐに同意した。だけど、私は首を横に振る。

今日中に、どうしても、してしまいたいことがあった。


「柚ちゃん、もしかして、もうお家で晩御飯の用意されちゃってる?」

「そうじゃないんですけど、すみません」


 今日を逃すと、もう勇気を出すことはできないかもしれないと思った。迷いに決着をつけたかった。突然切られた糸を手繰り寄せて、答え合わせをするのならば、今日が、いい。


 三人の先輩を真っ直ぐに見つめる。感謝と尊敬の気持ちでいっぱいだ。

彼がいなくなっても、自分の全てを失うことにはならずにすんだのは、間違いなくあなたたちのお陰だ。言わないけれど、そう思っている。


「私、好きだった人に、会いに行ってきます」

 一礼をして、私は駆け出した。

前に進みながら、携帯を手にして、空君とのトーク画面を開く。


まさか、こんな時に役立つとは思わなかった。空くんは、こうなることを予想していたんだろうか。

十一桁の電話番号に指で触れる。流れるコール音を右耳で聞きながら私は、ひたすら走っていた。




『……もしもし?』


 初めて聞く空くんの声は、思っていたよりも低かった。

「もしもし、柚です。突然、ごめんね。空くん、ひとつ頼んでもいい?」


 完璧に前を向くために、最後に、やらなければいけないことがある。