「私も言うから。だって、聡くんだけが言いたいこと言うなんてずるいもん」

「うざい」

「うん。聡君に無視されてむかつくし、本当はすごく悲しかった。家に帰ったら、思い出して、アイス二個食べちゃうくらい悲しい。聡君が夢に出てきたこともある。死ねって言われると、嫌な気持ちになる。あと、まだ高校生だから、ばばあじゃない。ブスでもない」

「はあ? お前はばばあだ」

「それなら、聡くんもじじいになっちゃうけど、いいの?」

「くそおんな!」


 聡君の投げた砂が目に入った。

激痛が走り、私は躊躇うことなく聡君の手首をつかんで立ち上がる。



「目洗うから、水道のところまで連れて行って」

「嫌だ、手、離せよ」

「じゃあ、聡くんが投げた砂のせいで、これから目が見えなくなったら、警察に言うから」


 痛みで目が開けられないので、直接確認することはできないけれど、今聡君は不服そうな表情を浮かべているのだろうなと思う。それでも、警察という言葉が怖かったのか、彼は私のことを水道まで連れて行ってくれた。

目を洗い流している間、水道の金属の部分をどすどすと蹴っていたけれど、ずっと隣で待っていてくれた。


 ようやく、向き合う準備が整ったような気がした。

蛇口を閉じて、その場に膝をつく。

そして、むぎゅう、と聡君の頬を手のひらで包んだ。



「私の何が嫌か、ぜんぶ教えてほしい」


 気づいたら、涙が溢れてきた。砂のせいだ。砂のせいなのだ。

そういうことにしようと思った。

聡君は抵抗しなかった。代わりに、私の太ももをつま先で蹴ってきた。



「くそばばあなところ」

「どこが?」

「……俺の小さくなった鉛筆、勝手に捨てた」

「……嘘」

「くそ! 嘘じゃねえし。うぜえ、お前なんか消えろ」


 記憶にない。

だけど、目の前にいる男の子が嘘をついているようには到底思えなかった。


聡君が怒っている。今までも、ずっとそうだったのだと気づく。

彼はずっと私に怒りを示していたのかもしれない。それに応えずに、自分を守るために、向き合うことから逃げ続けていたのは私だ。