その日は、聡くんがカシオペアの庭で遊ぶみたいだったから、子どもたちと遊ぶ側に立候補した。

風馬先輩と一緒に外へ出る。聡くんは今日も庭の隅にしゃがみこんで、ひとりで遊んでいた。雨で湿った砂を触っている。

私は、風馬先輩よりも先に彼の方へ向かった。



 心臓が、痛かった。

だけど、もう、逃げるつもりもなかった。

一度、深呼吸をして、彼の隣にしゃがみこむ。立ったまま、後ろから声をかけるのではなく、まずは同じ目線になろうと思った。

見えている世界を共有するところから、始める。




「聡君」

 案の定、無視されてしまう。


「聡君、聞こえているなら答えて」

「死ね」


 いつもなら、ここで怯む。

だけど、今日は、怯んでいる自分をしっかりと認めて、耐えようと思った。

顔はすでに引き攣ってしまっている。だけど、無理には笑わない。同じ目線だ。私と聡君は、今、対等なのだ。ふつうは、死ねと言われて、へらへら笑えるわけがない。


「違う言葉で私に何か言ってほしい」

「うるせえ、どっかいけ」

「いかない」

「死ね」

「死なないし、そういうこと言わないで。聡君がそれ以外の優しい言葉をたくさん言えること私知ってるよ。それなのに、それしか言わないなんて、聡くんかっこ悪い」

「くそおんな」


 砂をなげつけられる。だから、私も聡君の足元に投げ返した。


「くそ」

「うん」

「くそやろう、ブス、まぬけ」

「うん」

「消えろ、あほ、ブス、くそ、くそ」

「うん」

「きらい、おまえむかつくから、だいっきらい、死ぬといい、くそ」


 砂を投げ合っている。私の服はすでに砂だらけになっていた。

聡君の靴にも私が投げた砂がかかっている。