【柚】
〈夏の大会負けました。一回戦から私立の強豪校だったから、仕方ないけど悔しい! 写真だけ送っておくから〉
汗で額に髪がへばりつく。
自分の部屋の扇風機の前で、私は空くんから送られてきたメッセージと画像を見ていた。
〈負けたんだね。お疲れ様です!〉
写真の中から彼を探す。彼は、一番前の真ん中で笑っていた。
肩に手を回しているのが空くんだろうか。写真越しとはいえ、久しぶりに見た彼の姿に初めはどういう気持ちを抱けばいいのか分からなかったけれど、写真を眺めているうちに、寂しさと憤りともどかしさが膨らんでいく。
私がいなくても元気そうなことが寂しかった。将来のことで悩む私を差し置いて一人だけすっきりとした顔で笑っていることに腹が立った。
このまま私たちは大人になってしまうのかと思ったら、もどかしい気持ちになった。
会いたいというよりは、会わなければいけないのだ。
もう一度、会わなければ、私たちは、大人にはなれない。少なくとも、私は。
カシオペアのスタッフは、夏が終わるまで続けるつもりだった。
秋からは、大学受験の勉強に本腰を入れると決めている。
相変わらず私と、君島さんと風馬先輩と太一先輩の四人で働いている。先輩三人の言葉を受けて、自分で模索しながら探り探りでおこなう子どもたちへの働きかけは、案外楽しいのだということに、最近ようやく気が付いた。
以前よりは卑屈にならずに、カシオペアで働けているように思う。
だけど、ただひとつ、問題なのは、聡君との関係を私は未だに修復できていないことだった。一歩がなかなか踏み出せない。向き合うチャンスは、何度かあったように思う。それでも、聡くんに暴言を吐かれたり、嫌悪感丸出しの態度をとられたりすると怖くなって、へらへら笑うことに逃げてしまう。
夏が終わって、聡くんと会えなくなったら、後悔することは目に見えていた。
どうにかしたい。その思いだけが膨らんでいく。
そして、その機会は、思いがけない時にやってきたのだった。
〈最後の試合が終わったから、前に進む! 俺は受験です。柚ちゃんはどうするのか知らないけど、頑張って!〉
空くんからの返信だ。会ったこともない彼の友達の言葉だ。だけど、なぜか、強く、優しく、背中を押されたような気持ちになった。
前に進む。それは、きっと空くんだけではなく、彼も同じなのだろう。
そう思ったら、ずっと立ち止まったままでいるわけにはいかない気がした。
―――聡くんと向き合うことを、私の最後の試合にする。
そう決めて、私は、雨上がりの放課後にカシオペアへ向かった。