【太一】


 緑と黒の縞模様の球体の中は赤。切ってみないと分からない。

スイカの話だ。

だけど、人間も同じだと思う。外側と内側は全く違う場合がある。



 カシオペアで子どもたちに勉強を教えたり、一緒に遊んだりすることに、どうしても乗り気になれないことがある。言葉を発することさえ面倒になることがある。

それは、大学のゼミの発表が散々だったとか、朝から土砂降りの雨が降り続いていたとか、そういう些細なことが原因だけれど。

俺には、カシオペアに行くのが億劫になってしまう日が、何度かあった。


 そういうときは、一秒に何円の給料が発生するのかを計算しながら、子どもたちと向き合う。彼らの顔も言葉もお金に変換してしまう。

そんなことをしているなんて誰にもばれるわけにはいかないけれど、別にばれなければいいのだと思っている。



十代の頃は、もっと真っ直ぐな性格をしていた。

誠実であることが美徳だと思っていた。



「太一、柚ちゃんのフォローお願い」

「えー、君島が行けよ」

「太一?」

「はいはい。了解です」


 柚ちゃんを見ていると、とても眩しくて、俺は時々懐かしい気持ちになる。

ああいう感情、ああいう表情、自分も昔は持っていたはずだ。

それなのに、いつの間にかどこかに消えていた。



「聡、俺とやろうぜ」

「別にいいけど」


 柚ちゃんが申し訳なさそうな顔をして、別の子どものところへ向かう。


 聡の態度は、あからさまだった。

誰がどう見ても柚ちゃんのことを毛嫌いしている。ついさっきまで、『うるせえ』と『死ね、ばばあ』を繰り返し吐き続け、埒が明かないと判断した君島が俺にフォローを頼んだわけである。


 いつも柚ちゃんは、一生懸命で、真っ直ぐで、全てのことに対して誠実であろうとしているようには俺には見えた。別に、手を抜くところは抜けばいいし、気張らなくてもいい。

俺はそう思うけれど、そうやって世界を諦めたような先輩面はしたくなかった。