成山のことを恐る恐る見上げる。彼は、真っ青な顔をしていた。


「……成山?」

 そう呼びかけた、瞬間のことだった。


「おえっ、う、ぇっ、」


 突然、目の前で成山が身をかがめて嘔吐したのだ。

口から白いものが出る。そのまま、彼はその場にしゃがみこんだ。



「成山? 成山!」

何の躊躇いもなく、彼の肩を掴もうとする。だけど、すごいスピードで振り払われた。成山の制服の袖が、濡れている。唇から、糸を引いていた。

私はもう一度、成山に触れようとする。だけど、叶わなかった。


「触るなよ」

口に手を押さえたまま、成山が私を睨んだ。

目の奥で、白い熱が爆発した。伸ばしかけた手は、成山には届かず、宙に浮く。成山が後ずさる様を、私は呆然と眺めていた。


「気持ち悪い」

「……え、」

「お前、気持ち悪いよ。……きもち、わるい」

「成、山」

「気持ち悪い。……っ、おぇっ、もうだめだ、気持ち悪い。吐く。ふざけるな、ふざけるな」

「……成山」

「ふざけるなよ!」


 ドン、と床に成山は拳をぶつけた。血の気が引いていく。

自分の心臓の音だけが、やけにうるさかった。


「もう木梨に会えない。会っちゃいけない。俺もお前もみんな一生許されない。お前のせいかよ。傷つけた。死にたいって思わせた。なんだよ。俺のせいだったのかよ。なんなんだよ。お前と、あの日、一緒に作業なんてしなければよかった。お前みたいなやつに優しくしなければよかった。そうしたら、こんなことにはならなかったってことだよな。気持ち悪い。狂ってる。今、お前が気持ち悪くて、仕方ない。気持ち悪いよ、お前」

 
気持ち悪い、と成山は何度も繰り返す。そして、手で押さえた口の隙間から、また何か溢れてきた。酸っぱい匂いがする。

私は、身体を支えることができなくなり、その場にしゃがみこんだ。