【奈津子】
「どうして、木梨のシャーペンの芯を全部抜いた?」
埃くさい社会化準備室で、担任や学年主任と向かい合うようにして座っていた。
話し合いは、私の番だった。
必死でポーカーフェイスを貫こうとしたけれど、担任の開口一番の言葉に、身体が大きく揺れてしまった。
目を見開いた先で、担任と学年主任は、射貫くような視線を私に向けていた。
警察みたいだった。
「……どういうこと、ですか」
「木梨が話してくれたんだ。朝日に、シャーペンの芯を全て抜かれて、数学のテストを受けることができなかったって」
「……証拠は、」
「朝日」
「証拠はあるんですか」
自分が何にムキになっているのか、分からなかった。この期に及んでどうして足搔いているのだろう。
反省なんて、していない。そんな自分が、恐ろしい。
「朝日」
木梨が自殺をしようとしたと聞かされたとき、私が真っ先に思ったのは成山のことだった。
誰かの死の問題よりも、私は、神様のことを気にしていた。
「お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」
皆、分かっていないのだ。私は、死ねばいいのと思ったのだ。
成山をとるなら、消えてしまえと強く思っていた。
数学のテストの前の休み時間に、『筆箱を見せてほしい』と木梨に声をかけた。
木梨が断れないことなんて分かっていた。そして、怯えた木梨が俯いているのをいいことに、机の陰に隠して、シャープペンシルの芯を全て抜いた。
芯ケースを、制服の裾に隠して、筆箱を木梨に返した。
木梨の指先は、激しく震えていた。それを感じ取っても、私は、何も思わなかった。
罪悪なんてものはなかった。
まさか白紙で出すとは思わなかったけれど、数学教師に怒られている木梨を見たとき、私はただ満たされていた。
傷ついてほしい。
お前が私と神様の間にあった絆を傷つけたのだから、それくらいの報いは当たり前だろう。ざくざくと、大きなナイフで木梨の心臓を何度も突き刺しているような気分だった。
「分かってます」
全部分かっているうえで、それでもやったのだ。