「ムードのない…」



まだ湿った髪を柔らかく掻きあげた壱を、見つめて聞く。





「壱、なんでこんなに、慣れてるの?」






なんで今、こんなこと、聞いてる場合じゃないのに。




そう思ったのはついさっき、光太郎くんについて聞いた時と同じ。



でもさっきとは違う。


たぶんこれ、絶対今、聞いちゃいけなかった。



だって壱の瞳が、なにを言われても滅多に動じない壱の瞳が、一瞬わずかに揺れたから。



「なにが」



すぐにいつもどおり、少し冷たい瞳に至近距離から見下ろされるから、見つめ合ったまま言う。



「こういうこと、するの」

「こういうことってなに」

「はぐらかさないで…」



懇願するように言うと、壱は一度ゆっくり瞬きをして、何事もないように言った。




「慣れてはない。はじめてじゃないけど」




は…。