「それにしてもあやせくん。まさかわたるくんを打ち破るほどに成長するとは。月影さんとマスターの特訓は、それを可能にするほどに厳しかったのですか?」


千桜さんにそう尋ねられて、あの苦しかった特訓の日々を思い出す。


「そうですねぇ……何も見えない暗闇の中で矢を避けるとか、息を止めたまま戦うとか、色々ありましたけど……一番辛かったのああれですかね。針の上に人差し指一本で逆立ちするってやつ」


思い返せば、とても正気とは思えない内容に、言ってて自分でドン引きするけど、俺以上に皆が引いている。


「え、ちょっと待って……なにその特訓。虐待か何かなの? 針の上にって……そんなの刺さるに決まってるじゃない」


痛そうな表情を浮かべて杏子が震えるけど、冗談でもなんでもなく、成功するまで何本も刺さったんだよな。


「今までの葵は、身体能力とスキルに頼った力任せの戦い方でした。重要なのは、心・技・体のバランスです。技……スキルを扱う体。身体能力は備わっていても、心が伴っていなければ完全に力を発揮することは出来ません」


「月影さんの言う通り、私達は葵くんの心……つまり精神を鍛えることにしたのです。気付きましたか? あれほど簡単に呼吸を乱していた葵くんが、昴くんとの戦いでは落ち着いていたことに」