緩やかに意識が覚醒して行く。
軽かった身体に重量を感じるようになって、柔らかな布団に包まれて目を開けた俺は……左手に握られていた指輪をぼんやりと見た。
これは……灯の指輪。
俺の左手の薬指にも指輪があって、今までのことがゆっくりと思い出されて行く。
辛くて苦しくて、このまま布団を頭から被って寝てしまいたいけれど、胸の奥底に感じる物がある。
「灯……待ってろよ」
そう呟いて指輪を握り締めた俺は、ゆっくりと身体を起こした。
ここはどこなのか、見慣れない部屋に寝ていたようで、ベッドサイドにはずっと俺を見ていてくれたのか、夕蘭がソファで横になって寝息を立てている。
夢の中で、夕蘭を助けたような気がするけど……夢なんだろうな。
この部屋の天井に、でかい穴が空いてたような気がするけど、あれも夢だったのか。
そう思いながら窓の方に目を向けると、バーコードヘアの小太りの男が、ムスッとした顔で椅子に座って寝ていたのだ。
「……いや、誰だよ」
そんな俺の小さな声にさえ気付いたのか、男は突然目を開けて驚いたような表情で俺を見たのだ。
「なんと! 目覚めましたか葵くん! 昴くんがいない時に目覚めるとは……なんともありがたい」
何を言っているのかわからないけど、結城さんを知っているということは敵ではなさそうだ。
もしも敵だったら、夕蘭も俺もとっくに殺されていただろうからな。