どうしてだろう。


ただひとつ、小さな希望がひとつだけ、胸の奥で淡い光を放っている。


砕け散った心を繋ぎ止めるかのように。


「運命の少年なんてものは、奇跡を起こせるからそう呼ばれたわけじゃない。ただ、奇跡を起こした少年がそう呼ばれただけ。誰にだって、奇跡を起こすチャンスはあるのよ。だから葵……目覚めなさい」


闇の中を歩く俺を包み込むような、母さんの温もりがますます強くなった。


大切な人を失って、もうこれ以上は歩きたくないと思ったけれど、まだ最後の希望がある。


それをわかっていながら歩みを止めるのは、ただ、大切な人を失った自分が可哀想だと思われたいだけじゃないか。


まだやれることがあるなら、希望は捨てちゃダメだ。


「まだ立ち直れそうにはないけど……俺、また歩いてみるよ。たとえ一歩でも前に進めば、奇跡に近付くでしょ?」


正面の光が、強く、大きくなったような気がした。


「あなたなら大丈夫。いつまでもそばで見守っているから。さあ、行きなさい」


背中に温かいものを感じて、スッと消える。


まるで母さんに背中を押されたようなそんな感じがした。


「ありがとう、母さん。俺、行ってくるよ」


そう呟いて、俺は強くなった光へと歩き出した。