「葵、泣かないで。ママがいなくても生きていけるように、強くなるんだよ」


「俺には無理だよ……姉さんも灯もいなくなって、俺にはもう……」


「だけど、まだ希望はあるでしょ? 全ての根源にして、全ての願いと絶望の力が集まる場所。あなたは最初から、そこを目指していたはずだよ」


母さんの声に導かれるように、俺は前方に見える小さな光に向かって歩いていた。


暗くて冷たい……でも、母さんの声が心を安らかにしてくれる。


そんな感覚に包まれて、ただ闇の中を。


「バベルの塔には何があるんだ。願いが叶うって言っていたけど、本当にそんなことが起こるの? 」


「信じなければ動けなくなる。信じる力が奇跡を起こすんだよ。だから、信じる心を忘れないで」


「母さん……信じることが出来るかな。俺はもう、大切な人を失いたくないんだ。俺が動けば大切な人が死ぬ……だから」


それでも歩くのをやめなかったのは、光に近付けば近付くほど、心が安らいで行くような気がしたから。


「葵が動かなければ、もっと多くの人が死んでいたよ。自分を責めないで。奇跡を信じたあなたは、もっと多くの人を救えるから」


俺が動いて、その犠牲となったのが姉さんや灯というのは皮肉な話だ。


もう二度と立ち直れないくらいに心が壊れたと思ったのに。