「わかってますよ! そんなこと、言われなくても! だけど、ここに来るまでに皆死んだんですよ! 辛くないはずがないじゃないですか!」


俺の声じゃない。


背中に感じたその声に、ゆっくりと目を開けた。


「そうか。だが、辛い辛いと喚いているだけでは、駄々をこねている幼児となんら変わらないぞ? そんな精神でこの塔を登れるとはとても思えないな」


塔……だって?


それはもしかして、バベルの塔のことなのか?


ゆっくりと目を開けてみると、そこは真っ白な空間。


塔と言うからてっきりバベルの塔かと思ったのに、なんだこの真っ白な景色は。


「辛くて弱音を吐くことの何がいけないんですか! 全ての人が恵梨香さんほど強ければ良いでしょうけど、そうじゃないんですよ! 俺は……そんなに強い人間じゃないんです」


恵梨香……母さん?


なんだか、俺が落ち込んだらいつも母さんの夢を見るような気がするな。


まるで、俺を心配して慰めてくれているかのようだ。


「……自分の弱さを認められない人間に、強くなる資格など得られない。それはただの虚勢であって、真の強さではないのだ。だから、自分が弱いと認識するのは決して悪いことではない」