~雷門~


「もう大丈夫だよ灯。もう、化け物になんてならなくて良いんだ。俺がずっとそばにいるから……大丈夫だよ」


名鳥達が雷門に駆け付けた時、葵と宗司は龍神像の下でうずくまるようにして座っていた。


宗司は小さく肩をヒクヒクと動かしながら、泣き続けているのが誰の目にも明らかだったが、問題だったのは葵の方だった。


「ひっ……葵。あんた……」


その光景を見て、吹雪は小さく悲鳴を上げた。


血塗れの葵に抱かれた、破れたウェディングドレスを身に付けた灯。


だがそれは、いつもの見慣れた灯りではなかった。


「あ、吹雪さん。ほら、見てくださいよ。灯が化け物になっちゃったけど、元に戻ったんですよ。二度と戻らないって言われたけど、嘘だったんですよ」


切断された灯の首を大事そうに抱えて、葵は涙を流しながら物言わぬ灯に頬を寄せた。


「こんなの……あるかよ。ふざけんじゃねぇぞ! ふざけんじゃねぇぇぇぇっ!」


涙ぐむ篠田が、何度も何度も雷門の壁を殴り、叫び続けたけれど、それで灯が生き返るはずもなかった。


誰もが、灯がキングを破壊して、この死に塗れた街から脱出出来ると考えていただけに、この光景は受け入れ難いものだったに違いない。