「……言えるわけがないだろ。うちの頭は名鳥さんなんだ。灯まであんな姿になったと知ったら、今度はどうなるかわかりゃしない」


「葵はまだ16です。俺が『ヴァルハラ』にいた時よりもまだ若い。それなのに、こんな悲しみを乗り越えろなんて……俺も悲しいことはありましたけどね、沙羅がいたから乗り越えられた」


「沙羅ってあんたの奥さんかい? 真治といいあんたといい、死神と結婚するなんていい度胸してるよ」


ふわふわとした意識の中で、心地いい声が聞こえる。


懐かしい声だ。


ずっと昔、どこかで聞いたような懐かしさを感じる。


「だけど葵は……愛する人があんなことになってしまった。俺や高山真治とは比べ物にならないくらいの悲しみを乗り越えなければならないなんて。せめて、葵を支えてくれるパートナーがいてくれたら」


「だ、だったら、私がその死神ってやつになるよ! 私なんかじゃ無理かもしれないけどさ、こんなの……あまりにも悲しいじゃないか」


「……夕蘭、気持ちはわかるけど、今のキミの力で葵の隣に立てるとはとても思えない。心だけじゃない。戦いにおいても、支えることが重要なんだよ」


結城さんの声の後、夕蘭の声は聞こえなくなって。


部屋のドアが閉まる音が代わりに聞こえた。