「あの時、津堂がばら蒔いた種が、今になって目を出し始めたということですか。それにしてもそんな化け物の被害は南軍では聞きませんし、西軍でも起こっている様子はありません。恐らく、発症したのは灯さんだけなのでしょうね」


千桜さんが言った言葉を、俺はどうにも納得出来なくて。


拳を床に打ち付けて、身体を起こした。


「どうして灯なんですか! あいつは……ただ、父さんと姉さんを助けたくてこの街にやって来ただけなのに! どうしてそんな灯がこんな目に……」


「あやせくん。酷かもしれませんが、こんな酷いことが起こるのがこの街です。我々の道は、積み上げた屍で作られ、我々の未来は、狂おしい程の悲劇と絶望を超えて作られるのですよ。その覚悟がないのなら、キミは『運命の少年』にはなりえません」


千桜さんの冷たく、刺すような目にイラついて、俺は日本刀を取り出して走り出した。


「人の心がないのかあんたは! 人の心を捨てないと『運命の少年』じゃないって言うなら、俺はそんなものにはなりたくない!」


そう叫んだ瞬間、首の後ろに激しい衝撃が加わって。


俺は意識を断ち切られるように、深い闇の中に落ちて行った。


「少し頭を冷やせ馬鹿野郎が」


そんな宗司の声が聞こえた。