玄関のドアを開けて、壁際に生けられている花に目を向ける。


そこの正面に屈んで、俺は手を合わせた。


「おはよう母さん。俺は今日も元気です」


心の中で小さく「遅刻するけど」と呟いて顔を上げた。


「……そうか。あの日から今日で16年なんだな。明ちゃん、こういうことはしっかりしてるんだから」


家から出てきた父さんが俺の頭に手を置いて、隣で屈んで同じように手を合わせた。


俺は16年前、瀕死の母さんに連れられて、知り合いだったこの家に連れてこられたらしい。


本当の母さんは、俺を父さんに預けてすぐに死んでしまったようだ。


物心ついた時から、俺の両親はこの父さんと母さん……名鳥順一と名鳥明だった。


2つ年上の姉さん、(ひかる)と、同い年の妹、(あかり)の5人家族。


「お前の母さん、恵梨香ちゃんは強い人だった。彼女がいなければ、俺も明ちゃんも今、こうして生きてはいない。惜しい人を亡くしたもんだよ、本当に」


時折見せる、父さんの寂しそうな表情。


過去に父さん達に何があったのかはわからないけれど、きっと本当の母さんは、今の両親を救うようなことをしたんだろうな。


それだけで、誇らしい気持ちになれた。