どうして振り切らなかったのか、自分でもわからない。


仲間を一瞬で殺し、俺も殺そうとした目の前の女性に、俺は何を遠慮することがあるんだと。


日本刀が触れた額から、血が流れ落ちる。


「昴……お兄ちゃんを知ってるの? だから昴に似てたの? ねえ!」


刃が額に触れているにも関わらず、俺の肩に手を置いて激しく前後に揺さぶる。


「う、うわわっ! 危な……危ないって!」


何なんだよこの人は!


お互いに敵軍で、倒さなければならない人同士だろうに!


なんて、舞桜をこれ以上傷付けないようにと、日本刀を離した俺も随分おかしいかもしれない。


「結城昴は一度会ったことがある。俺は西軍で、あの人は南軍だってのに、殺されそうな俺を助けてくれたんだ。えっと……お姉さんと結城昴とはどんな関係なの? お兄ちゃんってことは妹?」


どう若く見ても20代中頃だし、結婚して苗字が変わってるなんて可能性もあるだろう。


「お兄ちゃんは……私を助けてくれた大切な人。もしも、お兄ちゃんに会ったら、初めて私と出会った場所で待ってるって伝えてくれない? 約束してくれるなら、あなたは見逃してあげる」