「なんかお前、変わったな。昔は『死神』なんて呼ばれてて、誰からも恐れられてたのによ。やっぱり年取ったからかねぇ?」


「失礼だぞ馬鹿者。子供が出来ると変わるものさ。お前にとっては神凪は昔と変わらず女かもしれないが、たまには母親としてのあいつを手助けしてやるといい。それだけで随分と変わるものだ」


「……それはお前の経験談か?」


男に言われて、女性は小さく首を横に振った。


「私は葵と真治がいるだけで幸せだ。だから苦など何もない。今、こうして生きていることが何よりも素晴らしいことなのだと、最近思うんだ」


「なるほどねぇ。まあ、たまにはあいつを気遣ってやるか。お前と話さなかったら、喧嘩別れしてたかもしれねぇな」


秋本に何か心境の変化があったのか、少し穏やかな顔付きになったと、女性は感じていた。


「おとーしゃん。あおいくんがころんだ」


「あーん、いたいよ。あーん!」


顔をくしゃくしゃにして泣く子供に、女性は屈んで腕を広げて。


「痛かったね葵。ほらおいで、どこが痛いか言ってごらん」


駆け寄って来た子供を抱き締めて、頭を撫でて子供の訴えに耳を傾けた。


「女と母親ねぇ……お前を見てたら、その意味もわかるってもんだぜ。なあ、宗司」


「もんだじぇ。なあ、おとーしゃん」


口真似をしてニカッと笑った宗司に、秋本は思わず笑った。


少しずつ、誰かが願った想いが、世界を変えていることにまだ誰も気付いてはいなかった。