「……ありがとうね、母さん。俺を守ってくれて。名鳥の父さんに預けてくれて。そのおかげで俺は、最高に幸せな人生を送れたんだ」


母さんの顔を見てそう言うと、母さんは何か思う所があったのか、顔をくしゃくしゃにして俺を抱き締めた。


「バカ……偽物なのに、泣かせるやつがあるか。でも、本当に良かった。こんなに強く、大きく育ってくれて。私の葵……ずっとずっと、愛してたからね」


「ああ、ありがとう母さん。もう一度俺、母さんの子供として生まれたい。だから、今度は本当に『母さん』って呼べるように……」


残った右腕で、母さんの背中に腕を回して、俺は願いを母さんの耳元で呟いた。


それが叶えられたのかどうかはわからない。


母さんを中心に、辺りは光に包まれて。


この部屋も、父さんも俺も、光の中に溶けるように、姿が見えなくなっていったのだ。


真っ白な世界で、意識も溶けて行くような感覚。


その中で確かに感じる、何かに導かれるような感覚を頼りに、俺はそっちに向かったような気がする。


ごめんね母さん。


父さんと姉さんを連れて帰るって約束は……まだ果たせそうにないよ。


だけど、いつか……そう、いつの日か、その約束は守るから。


消える意識の中で、唯一の心残りだった母さんとの約束を考えながら、俺はあの街も消滅したんだと確信した。