「そうそう。だから、僕のことをもっと可愛がってくれていいんだよ? 約束したもんね、葵くん」


ニカッと笑って悪戯っぽく俺に笑顔を向けると、他の皆がまるで汚物を見るかのような目で俺を見る。


「灯ちゃんのことをもう忘れて、別の女に手を出したか……なかなか最低だな」


「うわ、結構ドン引きなんですけど。葵くんってそんな人だったんだ」


杉村とひなたさんが声を漏らすけど、他の皆もきっと同じようなことを思っているに違いない。


「ち、ちが……友達になるって約束はしたけど、変なことはしてないしするつもりもないよ! 美空ちゃんも勘違いさせるような言い方はやめてくれ!」


わいわいと、ここが敵地であるのを忘れてしまうような雰囲気で歩いていると、大塚さんが左手を横に広げて歩みを止めた。


「あなた達はピクニックにでも来ているつもりですか? 少し、緊張感が欠けているのではありませんか? 来ますよ。お客さんです」


温和な大塚さんにチクリと嫌味を言われ、思わず黙ってしまったけど……線路の先、前方。


何やら白い布を棒に括り付けて、それを掲げて歩いて来る二人の鬼の姿があった。


あの鬼は……見覚えがある。