『聖戦が開始されました。皆さん、頑張ってください』
その声と共に電車が動き出す。
隣の電車の先頭に乗っている美空ちゃんが手をかざし、東行きと西行き二本の電車が同時に動き出した。
「うおっ! この街で電車が走るなんて、なんか感動だな。車でさえ動かねぇってのによ」
宗司が驚いたようにそう呟いたけど、その気持ちはよくわかる。
俺達がこの街に来て、一体どれくらいの時間が経っただろう。
少なくともひと月は経過したと思うけど、その間電車も自動車も、動いているのを見たことがないのだ。
だから、電車が動くということは、元の世界に一歩近付いたような感じがして嬉しく思えた。
電車が徐々に加速して行く。
浅草橋駅を通り過ぎて、隅田川に差し掛かると、視界が開けてバベルの塔が圧倒的な存在感で俺達の前に現れた。
まだここに行く為の扉が開かれていないと感じる。
だけどあと少しだ。
今にもその扉が開かれんとしている感覚が俺の中にあって、その時が迫っていることを教えてくれている。
電車は、さらに速度を上げて隅田川を渡り、問題の両国にさし掛かろうとしていた。



