綺月君と反対の方に、
顔を向けるのが精いっぱいな私。
呆れたように私の首から離れた、
綺月君の手のひら。
首筋にかすかに残った、綺月君の温もりが、
私の心をつーっと冷やしていく。
「噛むの、やめた」
冷酷な綺月君の声が、
部屋中を重苦しい空気で埋め尽くし。
後悔で、
心臓が握りつぶされたように痛い。
ベッドがきしんで。
綺月君は、スッと立ち上がった。
拒絶されているようで、
泣きたくなる。
「変なこと言っちゃって……
ごめんね……」
自分の部屋に逃げなきゃ。
そう思って、
ベッドから立ち上がろうしたのに。
できなかった。
だって……
目の前に立った綺月君が。
切なそうに瞳を揺らして、
私を見つめているから。
細くて長い指が、
ゆっくりと近づいて来て。
ベッドに座る私の右頬を、
ふんわりと包み込んだ。
「俺、ドラキュラにはなれねぇな」
え?
「首筋じゃ、満足できないから」
「綺月……くん……?」
言っている意味が、わからないよ。
ぜんぜ……。



