「俺……帰りたいんだけど……」


 情けない俺の声に、
 さらに瞳を光らせた千柳。


「俺に、家まで送って欲しいよね?」


「な……?」


「それとも、綺月を
 山の中に置き去りにしてもいい?」


 千柳のマジな目が、怖ぇ。

 これ以上、俺を脅すつもりなのかよ!



「今度イベントで、書道パフォーマンスを
 することになってね」


 テレビに顔出しはしていないけれど。

 千柳は
 その道では大人気の書道家だしな。


「ピアノとコラボしたくて」


「金積んで、
 有名ピアニストを起用するわけ?」


「違うよ。ピアノを弾くのは、綺月」


 はぁ? 俺??



「月明かりの下。
 たくさんのお客さんの前で、
 綺月がピアノを弾いて……」


「決定事項みたいに話しすすめんの、
 やめてくれない?」


「俺が大きな紙に
 筆で文字を走らせるでしょ」


 俺の話し、無視かよ……



「でね、書の周りを
 氷牙が踊りながら歌うの」


「あいつ、墨まみれだな」


「大丈夫。俺が今まで出会った人の中で、
 黒が一番似合うのは、氷牙だから」


 氷牙の奴、ご愁傷様。