東京ヴァルハラ異聞録

「大丈夫……私……やるから。仲間同士で喧嘩……ダメだよ」


かすれた声でそう呟き、震える脚で立ち上がった美姫。


「わかった。失敗は許されないぞ?たとえ死んでも、自分の役割を果たせ」


「くっ!み、美姫さん!本当に……やるつもりですか」


これ以上美姫の力を使わせるのは反対だが、美姫自身が力を使うつもりでいる。


どんな手を使ってでも止めたいけれど、フェンリルを倒す手段が他にないのも事実。


さらには、倒したはずのポーンが、どこからか再び発生し始めて、戦いが永遠に終わらない気がしていたから。


「ありがとう……千桜さん。私は信じてる……昴くんが……元の世界に帰してくれるって……」


そう言って、千桜に笑顔を向けた美姫。


その笑顔に、千桜は流れそうになる涙を堪えてバベルの塔を見上げた。


「わたるくん……早く……美姫さんが死んでしまう前に」


もう、千桜にはそう祈る事しか出来なかった。


「……こんな女の子を犠牲にしてまで、戦わなきゃならないのか。本当に人間ってのは罪深い生き物だよね。命を懸けるなんて、俺達みたいな年寄りで良いだろうにさ」


その会話に参加すら出来なかった名鳥は、小さくそう呟くしかなかった。