東京ヴァルハラ異聞録

一室の壁にもたれるように座らされ、沙羅が俺の顔を覗き込んだ。


「戦えないって……どういう事?バベルの塔に行くんでしょ?それなのに戦えないって……」


「たまにいるの。力の差を見せ付けられて、完全に心が折れてしまう人が。美姫ちゃんも見た事ない?路地で、死んだようにぼんやりしてる人達」


二人の声は聞こえるけど、まるで水の中で聞いているかのような音。


フィルターがかかっているかのようで、俺が俺じゃないような感覚さえある。


「見た事はあるけど……昴くんがあの人達と同じだって言うの?そんな人達と昴くんは違う!絶対大丈夫なんだから。ね、昴くん!大丈夫でしょ!」


美姫がそう言い、俺の身体を揺するが……俺は、返事すら出来なかった。


何か、壊せない何かに包み込まれているような感覚。


ただ、動こうと思う程度では身体が動いてくれないのだ。


「こうなったら、沙羅達が何を言ってもダメだよ。昴くんが強い意思を持って立ち上がらない限り、このままだよ」


「嘘……信じられない。だって、さっきまであんなに……」


「突然、自分の力ではどうしようもない敵と遭遇したんだよ。一瞬で殺されたわけじゃない。散々いたぶされて、死の寸前まで深手を負わされて、生かされたんだから」