東京ヴァルハラ異聞録

俺と沙羅の背後に立ち、そう言い放ったのは拓真。


屈んで、俺のズボンのポケットからPBTを取り出すと、右手を持ち上げ、瞬間回復の操作をしたのだ。


腕と脚が再生し、負ったダメージが完全に癒えた。


目の前では、黒井と秋本が互角の勝負を繰り広げているが……俺はどうすれば良いのか。


「ほら、立てよ。秋本さんの邪魔は出来ないけど、大友を殺るぞ」


拓真に手を差し伸べられたけれど……俺は、その手を取る事が出来なかった。


「?昴くん?」


そんな俺を見て、沙羅が不思議そうに首を傾げた。


身体がガタガタと震える。


恐怖は、今までに何度も感じてはいたけど……それらとは全く異なる。


「昴……お前。黒崎、こいつを連れて逃げろ。何人もこんなやつを見たお前ならわかるだろ」


そう言い、短剣を二本取り出した拓真は、大友と戦う吉良の方へと移動した。


「昴くん……ごめんね」


耳元でそう呟いた沙羅に抱き上げられ、俺達はその場から離れた。


途中で美姫と合流し、人通りが少ない路地でビルに入る。


「ここなら大丈夫そう。でもどうしたの?昴くんに何があったの?」


「わからない……わからないけど。もしかすると、もう戦えないかもしれない」