東京ヴァルハラ異聞録

篠田の剣幕にも、久慈は退かない。


ただ怒られているわけではない。


西軍最強の男の生死が関わっているのだ。


これは、西軍全体の士気にも関わってしまうと久慈は考えていたから。


当然、篠田に死んでほしくないと思ってはいたが、こうなっては遅かれ早かれ死は免れないとも考えていた。


「お前が俺を殺して西軍最強を名乗れ。そして西軍を……真由を守れ」


「で、出来ませんよ……出来るわけないじゃないですか」


いつの間にか溢れた涙を拭う事もせずに、久慈は篠田に首を横に振るだけ。


「お前にしか任せられねぇんだよ!どんな形でもいい、西軍を強くするんだよ!憎まれ役を押し付けるみたいで悪いけどよ……頼むわ」


そう言い、篠田は久慈の服から手を離した。


想いは託した。


久慈には西軍の未来を、そして昴には帽子と、自身には成しえなかった希望を。


それが伝わったかはわからなかったが、いつかバベルの塔に登り、全ての人達を元の世界に戻す願いを叶えてくれと。


「俺の代わりに頭を張るんだ、胸を張れよ。そして西軍に知らしめるんだ。篠田武久を殺したのは、西軍最強の男、久慈明友だってな。一人のバカな男の生死よりも、西軍の事を考えるなら……やれ」