東京ヴァルハラ異聞録

俺は……しばらく動けなかった。


それに気付いたのか、千桜さんが慌てた様子で俺の所にやって来た。


「わたるくん、大丈夫ですか?あれが三宅零……ゼロ・クルセイダーズのリーダーですね」


「すみません、千桜さん。俺、気付かれてたみたいです」


「まあ、あれだけ殺気を放っていたら、三宅ほどの男になら気付かれるでしょうね。まさか、あれほど強いとは思いませんでしたけど」


確かに強かった。


あの川本が全く歯が立たないというのは予想外だったけど。


「……それでも、篠田さんの方が全然強かったです」


視界の上にある帽子のつばを見て、俺はそう呟いた。


あの中指を立てるポーズは、俺に向けられた物なのか。


それとも、この帽子の持ち主だった篠田さんに向けられたのか。


「それでも、僕の見立てでは橋本さんと同じくらいの強さはあると思いますよ。感情的になって、わたるくんが戦いを挑んでも勝てる確率は極めて低いです」


「絶対に勝てない……とは言わないんですね」


「……キミは何をしでかすかわかりませんからね。それでも、今の段階では可能性はほぼゼロと言った所でしょうか」


負ける戦いは今に始まった事じゃない。


いつも俺の相手は俺より強くて、勝たなければいけない戦いはあっても、最初から勝てるとわかった戦いなんてほとんどなかったんだ。