東京ヴァルハラ異聞録

「いや、もういい。そうだ、一つだけ聞かせてくれないか?」


その女性が涙を拭い、優しい笑顔を浮かべて尋ねた。


「何ですか?」


「少年は……何の為に戦っている?それだけ教えてくれ」


きっと、この問いには大切な意味があるのだろう。


だけど、俺の想いはあの時から変わっていない。


「バベルの塔に行って……願いを叶えたいんです」


沙羅の願いを叶えたい。


元の世界にいれば、戦いとは無縁なはずの沙羅の願い。


「ほう?一体どんな願いを叶えるつもりだ?」


「皆一緒に、元の世界に帰りたい。そして出来るなら、元の世界で大切な人に再会したい」


強く、そう言ったと同時に、女性は俺を抱き締めて。


何が起こったのかわからないけど、また泣いているようだった。


「す、昴!くそっ!羨ましい」


「悟、あんたでもそんな事思うんだね……」


しばらくして俺を放し、また涙を拭って笑って見せた。


「少年が叶えられなかった願いを、お前が叶えるんだな。会えて良かった。きっと、誰かが導いてくれたに違いない」


嬉しそうに話し、俺を通り過ぎて屋上の縁へと歩いて、その上に乗った。


「あ、あの……名前は」


「おかしなやつだ。さっき少年が言っただろう?私は北条恵梨香(ホウジョウ エリカ)。また会おう」


微笑んでそう言うと、恵梨香さんは屋上から飛び降りた。