東京ヴァルハラ異聞録

「ちょっと、気になる事があるだけです。何もなければそれで良いですから」


そう言って、梨奈さんと共に整骨院の中に入った。


あの時と同じ空気……だけど、人がいるような気配を全く感じない。


「……誰かいるか?俺だ、昴だ」


待合室でそう言ってみたけど……返事はなかった。


「誰もいないみたいね。誰がいるはずだったの?そろそろ教えてくれてもいいでしょ?」


「ここに、小学生が二人と、中学生が一人隠れていたんです。大人を信用出来なくて、子供達だけで生きてたんですよ」


特に荒らされている様子もないし、拓真が保護してくれたと考えたいけどどうだ?


「子供達だけで……そう。だから昴くんは気にしてたってわけね。人の事ばかり気にかけて。相変わらず優しいんだから」


梨奈さんはそう言ってくれるけど、きっとそうじゃない。


本当に優しければ、人を殺したり、子供達の面倒を人に頼んだりはしないと思ったから。


「違いますよ。きっと、子供達まで殺す覚悟がなかっただけです」


そう、小さく呟いた時、梨奈さんが「あっ」と声を上げた。


壁を指さしている、梨奈さんの指の先を見ると……。


そこには、刃物で書いたような文字が刻まれていたのだ。


『シンパイスルナ T』


と。