東京ヴァルハラ異聞録

とにかく想いを伝えなければと、一方的に話をしたけど……沙羅は嫌そうな顔ひとつせず、微笑みを俺に向けていた。


ヴァルハラで初めて会った時のような、ふわりとした感覚。


あれは、運命の出会いだったんだと、この沙羅を見て思ってしまった。


「ダメだよ?初めて会った人に、そんなことを軽々しく言っちゃ」


クスクスと笑い、そう言った沙羅に、俺は優しさを感じた反面、寂しさも感じてしまった。


沙羅は変わらない……俺の記憶がなくても、優しくて温かい沙羅だ。


だけどそれが寂しさを助長してしまう。


俺と一緒にいてくれた沙羅はもう、どこにもいないんだと思ってしまうと。


「ご、ごめんなさい……俺、ひと目だけでも沙羅に会いたくて。でも、もう帰ります」


これ以上いても、辛くなるだけだと、軽く頭を下げて沙羅から離れようとした時だった。










「ひと目だけでいいの?昴くん」








俺の背後からそんな声が聞こえて、思わず振り返る。


「沙羅……覚えてるのか?」


「恵梨香さんと真治くんが一週間くらい前に来てね。それで思い出したの。ずっと待ってたよ。でも、見付けてくれてありがとう」


その言葉を言い終わると同時に、沙羅が駆け寄って俺に抱きついた。




いくつもの死を越え、多くの仲間と共に駆け抜けたヴァルハラ。


街中ですれ違ったとしても、記憶のない人達にはわからない。


それでも、俺は忘れない。


あのヴァルハラで果たした出会いは、この世界でも意味があるものだと思うから。


命を懸けて戦った人達の記憶を……俺は忘れない。





殺戮都市~バベル~
東京ヴァルハラ異聞録

【完】