東京ヴァルハラ異聞録

俺を見て……名前を呼んでくれない。


そうか、そうだよな。


俺は記憶を無理矢理呼び起こされたけど、沙羅は違うんだ。


それなのに、ヴァルハラとかわけのわからない事を言われても……困るよな。


「あ、い、いえ……何でも……ありません」


「そう……」



小さくそう呟いて、沙羅は俺を通り過ぎて行った。


こうなる……のはわかってたよな。


沙羅に記憶が戻ってないなら。


これで良いんだ。


戦いのない日常に戻れたんだから、わざわざわからない事を言う必要はない。









……なんて、そんな簡単に諦められるほど、俺は大人じゃない!


そう考えると同時に、俺は沙羅を追い掛けて走った。


「く、黒崎沙羅さん!」


俺の声に、驚いたように振り返った沙羅。


「沙羅は忘れてるかもしれないけど……遅くなったけどやっと見付けたよ。何言ってるかわからないと思うけど、ヴァルハラで初めて見た時からずっと好きだった。沙羅がいたから……沙羅の力になりたかったから、俺は戦えたんだ。こうして戻って来られたのも、沙羅がそばにいてくれたから。何の目的も持っていなかった俺に希望をくれたから!だから……もう一度会いたいと思って、ここに来たんだ」