東京ヴァルハラ異聞録

頭から飛び込んで来た秋本の腕を掴んだ大塚と千桜。


神経を集中して、自分が持てる最高速の動きで、決してスピードを殺す事があってはならない。


この速度を、さらに上げる働きをしなければ、ここにいる意味がない。


人よりも速く動くというのは、大塚と千桜にとっては得意な事だった。


それでも、この速度を上回れるか……という超えなければならない壁はあったが、二人はそれを超えた。


自らの身体の限界を超える速度。


秋本を押し出した二人の腕は折れ、皮膚が裂け、血を噴き出していた。


「頼みましたよ!秋本さん!!」


ハルベルトを構えた秋本。


龍拳が広げた傷に一直線に迫る。


「龍拳!!そのまま広げてろっ!」


「は、はいっ!!」


ビルの上からそれを見ていた美姫には、フェンリルの背中に光が降り注いだように見えた。


大量の血が噴き出して、フェンリルの身体が激しく反って。


ああ、終わったんだなと、美姫は安心して手を下ろした。


身体中から噴き出した血を止める事も出来ない。


「昴……くん……私、やったよ……褒めて……くれるかな」


最後にバベルの塔を見上げて……美姫はゆっくりと目を閉じ、ビルの屋上で息を引き取った。


光の粒に変化する事もなく。