転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 季節が移ろいゆくということは、別れの時が近いということだ。ちくりと胸の奥が痛む。滞在期間が過ぎれば、彼はこの国を去っていく。
 その事実に胸の痛みは増す一方だったが、営業用の笑顔で自分の気持ちに蓋をした。

「そういえば、アークロイド様がお帰りになるまで二週間を切りましたね」
「……そうだな」

 なんでもないように振る舞ったものの、アークロイドの反応は鈍かった。ルースが様子を窺うように視線を向けているが、それすら気づいていないのかもしれない。
 シャーリィはぽんと両手を合わせ、努めて明るく言う。

「第三皇子が次期皇帝に内定したそうですし、これでいつでも帰れるんじゃないですか?」

 もともと、長期滞在の理由は、皇位継承権の争いから逃れるためだったはずだ。情勢が安定した今、いつ帰国しても支障はないだろう。

(それに、離れていたぶんだけ、自分の国が恋しくなっていても不思議はないし……)

 さびしさは募るが、こればかりは仕方がない。出会いがあれば別れもある。この国が離れがたいと思ってもらえたら幸いだが、彼は海の大国から来た皇子だ。与えられた役割や皇族としての義務もある。それはこの国にいたら、できないことだ。
 シャーリィにできることは笑顔で見送ることだけだ。自分の役目を心に刻みつけていると、不意にアークロイドがつぶやいた。

「…………帰らない」

 空耳が聞こえたが、気のせいだろう。しかし、万が一のこともある。念のため、確認は取っておくべきだろう。

「あの、すみません。私、聞き間違えてしまったようです。今、何と?」
「帰らないと言ったんだ」
「…………」
「この手はなんだ」

 シャーリィは右手を突き出したまま、当然の要求をする。

「何って、延長料金ですよ。宿泊を延長されるのでしょう? でしたら、また前払いでお願いいたします」