転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 思ってもみないことを言われ、瞬く。

(自家栽培が可能になる……?)

 作物が育たない黒の小国。それがレファンヌ公国だ。魔力が浸透した土壌で生きていけるのは、魔力を持った植物だけだ。
 自家栽培の話は荒唐無稽に思えたが、アークロイドは何かを確信しているような表情だった。シャーリィはごくりと息を飲み込み、口を開いた。

「でも、どうやって隔離したらよいのでしょうか。土壌中には魔木からの魔力が行き渡っていると思います。阻害する方法が思いつきません」

 心配事を口にすると、アークロイドは太ももの上で両手を重ね合わせた。

「物理的に遮断すればいい。地面を舗装し、その上に土を被せて栽培するんだ。四方を囲んだ温室を作れば、雨にも風にも負けない野菜作りができるだろう」
「…………」
「どうした、金魚のように口をパクパクと開けて」
「……その表現はどうかと思いますが、発想自体は素敵だと思います。考えもつきませんでした」

 素直に感想をこぼしたら、アークロイドは少し顔を曇らせた。ティーカップに注がれた緑の水面を見つめ、ふう、と息をつく。

「だが、すでに魔力が満ちている土壌は使えないかもしれない。他国の土を使うとしたら、適宜輸入しなければならないだろう。野菜が生長して、土が徐々に減ることを考えれば、初期投資だけでは足りない恐れがある」
「うっ……予算が必要ですね」

 顎に指先を乗せて、むむむと眉根を寄せる。
 初期投資だけでなく、追加の費用が加算されるならば、あらかじめ毎年の予算に経費計上しなければならない。

「とはいえ、少しずつでも自給自足ができれば、今よりは助かるだろう?」
「それはもちろんです。貿易赤字を解消とはいかなくても、赤字幅の縮小はできるでしょう」
「鉢植えでは野菜作りは成功しているんだ。成功する確率は高いと考える」
「だったら、まずは小規模な土地から研究を始めなくては。……いえ、その前に予算会議で大臣たちから承認を得ることからですね……」

 予算をもぎ取るための算段を練っていると、アークロイドの顔色が冴えないことに気づいた。

(どうしたのかしら? 温室の案を出してくれたし、これから研究することが増えるのに……あ)

 そこで、はたと我に返る。
 彼はレファンヌ公国の人間ではない。今まで当たり前のように近くにいて、困ったときには助言をしてくれていたが、本来はこうして気軽に会話できる関係ではないのだ。

(忘れていたわ……もうすぐアークロイド様は国に帰るのよね……)